セマグルチド × 甘草(カンゾウ、グリチルリチン)を含む漢方薬・健康食品・お菓子 ヒトでの直接データなし・機序からの注意
要約
甘草(カンゾウ、漢方薬や健康食品、お菓子に入る甘み成分のもと)とセマグルチド(飲み薬のGLP-1受容体作動薬)を組み合わせて調べたヒトでの研究はありません。まず甘草側の話として、甘草の取りすぎは、体に塩分と水分をためて血圧を上げ、カリウムを下げる「偽アルドステロン症」を起こすことがあります。この薬を含むGLP-1受容体作動薬については、健康な人での小規模な試験で、血圧や塩分の調節に関わるホルモン(アルドステロン)を抑えたり、塩分(ナトリウム)を尿に出す働きを強めたりする結果が出ています。ただし偽アルドステロン症は、アルドステロンが多い状態ではなく、コルチゾール(副腎から出るホルモン)が塩分調節の受け皿を刺激して起こるもので、仕組みが違うため、この結果をそのまま当てはめて「打ち消し合う」とは言えません。カリウムについては、尿に出る塩分が増えるとカリウムも出ていきやすくなる可能性があり、甘草のカリウムを下げる働きと重なる向きも考えられます。つまり「この薬を使っているから甘草を取っても安全」とは言えません。甘草の注意は量と期間の問題です。量の目安として、甘草2.5g/日(主成分グリチルリチン酸で約100mg)を超える量を取り続ける場合は、血圧とカリウムを確認しながら使う水準とされています(それ以下でも起きた例があるため、「目安以下なら安全」という意味ではありません)。漢方薬を長く飲んでいる人、甘草入りの製品を毎日取る人は、血圧が上がってきた・むくむ・だるい等の変化があれば処方医・薬剤師に伝えましょう。服用時間をずらすことで対処できる飲み合わせではありません。
ヒトでのエビデンス
なし(この組み合わせを直接調べたヒト研究はない。GLP-1受容体作動薬の塩分・ホルモンへの作用については健康成人での小規模なヒト試験あり)
根拠
甘草とGLP-1受容体作動薬の併用そのものを調べたヒト研究・症例報告はない。「GLP-1受容体作動薬が甘草の偽アルドステロン症を抑える」という報告も確認できない。甘草側の仕組み: 甘草の成分グリチルリチン酸は、腎臓でコルチゾール(副腎から出るホルモン)を不活化する酵素(11β-HSD2)を邪魔し、コルチゾールがミネラルコルチコイド受容体(塩分と水分のバランスを調節する受け皿)を刺激する状態にする。そのため塩分と水分が体にたまり、カリウムが尿に出ていく。アルドステロン(同じ受け皿に働くホルモン)自体はむしろ低くなるのが特徴(総説: Yoshino T, et al. Front Nutr. 2021;8:719197. PMID: 34604277)。GLP-1側のヒトでの知見(いずれも健康な成人での小規模試験): GLP-1そのものの点滴で、腎臓から塩分(ナトリウム)を出す働きが約40%増え、アンジオテンシンII(血圧を上げるホルモン)が19%下がり、アルドステロンは変わらなかった(Skov J, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2013;98(4):E664-671. PMID: 23463656)。別の試験では、GLP-1そのものの点滴3時間でアルドステロンが下がった(Baretić M, et al. Diabetes Ther. 2018;9(6):2315-2324. PMID: 30298444)。エキセナチド1回投与でレニンとアルドステロンが下がった報告もある(Heinla K, et al. Horm Metab Res. 2021;53(6):402-407. PMID: 34154031)。塩分を出す作用は、GLP-1の働きをふさぐ薬(エキセンディン9-39)を一緒に使うと消えたため、GLP-1受容体を介した作用と考えられる(Asmar A, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2021;106(1):E11-E19)。一方、リラグルチドを3週間続けた試験では、レニンとアルドステロンがむしろ上がり(Sedman T, et al. Horm Metab Res. 2017;49(1):5-9. PMID: 27300475)、小規模な試験同士で結果は一致していない。なお、これらの試験で使われたのはGLP-1そのものやエキセナチド・リラグルチドで、セマグルチドそのものを調べたものではない。方向の整理: 偽アルドステロン症は「アルドステロンが多すぎる」病態ではないので、GLP-1の「アルドステロンを抑える」知見はそのまま当てはまらない。腎臓の近位尿細管(尿を作る管の手前の部分)で塩分の再吸収を抑える作用が、塩分・水分のたまり方と逆向きに働く可能性は仕組みのうえでは考えられるが、遠くの尿細管に届く塩分が増えるとカリウムも尿に出やすくなるため、甘草によるカリウム低下と重なる可能性も否定できない。どちらも実際に確かめた研究はない。逆方向の報告(動物・細胞レベル): 甘草の成分グリチルリチン酸が、胆汁酸の受け皿(TGR5)を介してGLP-1の分泌を増やしたというラットと培養細胞での報告がある(Wang LY, et al. Biomed Pharmacother. 2017;95:599-604. PMID: 28881290)。ヒトでの意味は分かっておらず、飲み合わせの安全性を示すものではない。
- 最終確認日
- 2026-11-01
研究の条件
GLP-1そのものの点滴や、エキセナチド・リラグルチドを健康な成人に1回〜3週間使って、ホルモン(レニン・アルドステロン)や尿への塩分の出方を測った小規模な試験がもと。甘草を一緒に取った条件の試験ではない。
ふだんの量では
甘草は漢方薬のほか、健康食品・お菓子・飲み物などからも日常的に入ってきます。目安として、甘草2.5g/日(グリチルリチン酸で約100mg)を超える量を取り続ける場合は、血圧とカリウムを確認しながら使う水準とされています。1〜2g/日程度でも偽アルドステロン症が起きた例があるため、目安以下でも取りすぎが続く場合は注意が要ります。